てくてく

日々の作曲に

突発性難聴と音響外傷

 渋谷に新しいWWW Xが出来たということでいろんな音楽家が出演していて最終日の10月29日に池田亮司メルツバウがライブするということで見に行った。メルツバウが最初に出て来て次に池田亮司メルツバウの音楽はかなり前に音源で聴いたことがあってすごいノイズの塊だなあという印象だった。新しいWWW Xに多分300人ぐらい?そんなに多くないかもしれないけどフロアにいっぱい人がいて提供されたワンドリンク1時間ぐらい待ったあとメルツバウ登場。

 

 メルツバウがテーブルに並べてある機材のノブを回転させた瞬間凄まじいノイズがゴー!っと鳴り始めて「うわあ、こりゃドえらい音響だな」ぐらいに思ってそのノイズ成分の変化や新たに付加されるノイズを突っ立ったまま聴いていた。音量自体もデカ過ぎとは思っていたんだけど周りにいる人たちは平然と立って音に集中してる様子だったのでその時には「こういうものか」ぐらいに思っていたのだけど、学生の時に小さなライブハウスでギターバンドのライブで10分ぐらいの演奏を聴いたあとに耳がキーンとなって耳の閉塞感みたいなのを数分ぐらい感じるという経験があったので「この演奏終わったらそうなるかもなー」と思い始めた。でもこのメルツバウ池田亮司と共に恐らくそれぞれ45分ぐらいは演奏する。そう考えると、耳大丈夫かなこんなデカい音で聴いててという思いも出て来たのだけどなにぶん周りの人たちが平気そうなのでつい僕も大丈夫だろうとか思ってしまった。

 

 時々耳に痛い周波数の音が出て来た時は少し耳を指で塞いだりした。いつまで続くのかなーメルツバウと思うぐらい結構長く感じた。終わった瞬間周りの人たちが「ヒュー!」だの「ィエー!」だの叫んで拍手してたけど耳の奥なのか頭の中なのかとにかく「キーーン!!」という大きな耳鳴りと閉塞感にびっくりした。「うわ、耳鳴りヤベー」という周りの声も少なからず聴こえたけどかなりの恐怖感。少し怖くなりとりあえずフロアを出て休憩するも耳鳴りと閉塞感が止まない。少しずつマシになるだろうと思っていたのだけど永遠に続いたらどうしようとも思うと結構怖かった。他の人たちはお互いの声がよく聞き取れない様子なのに楽しそうに話してるのが信じられない。学生の時は数分で収まった耳の閉塞感が20分してもおさまらない。これはもしかしてまずいのでは?と思い「ライブ 大音量 耳」とかで検索すると「音響外傷」という言葉が出て来た。しかも「耳鳴りがしてからでは…(中略)そうなる前に…」とか書いてあったのでおいおいマジかと怖くなり、その次のメインの池田亮司をとても見る気にはなれず出て来てしまった(ついでに。退出したのは僕だけでなんと他の客は全員池田亮司のライブが始まるのでフロアに戻って行った。絶対耳がバカになってる状態なのに…。信じられない!怖くないのかなと不思議だった)。

 

 ハローウィンでそこら中お祭り騒ぎの渋谷の人ごみの中を駅に向かって歩いていても周りの音がこもってほとんど何も聴こえない。こりゃやってしまったかもなと。

 

 僕は耳に関してはかなり神経質でヘッドフォンも長時間装着しないとか音量にも気をつけるとか普段から気を配っているのだけど今回は完全に油断した。

音響外傷とは大きなエネルギーを持った音(異常にデカい音)を聴き続けることによって起こる内耳の損傷のことで、傷が軽度であれば数時間で自然治癒するが翌日になっても耳鳴りや閉塞感が続くと早めに治療を開始しなければならない。治療は主にステロイドを内服、もしくは点滴、それと血管拡張剤を飲み、安静にする。発症から2週間以内にどれだけ聴力が回復するかでその後の残りの人生の聴力が決定される。つまり治療によって完全回復するとは限らない。

 

 この治療は音響外傷だけではなく突発性難聴と全く同じ治療法。何故僕が治療法に詳しいかというと2005年に一度突発性難聴になったからだ。ある朝起きたら右耳が綿を詰めたみたいに全然聴こえない。自分の声もよく聞き取れない。耳鳴りもする。なんだろうと思って耳鼻科に行くと先生が僕の耳の穴の中を見ながら「おかしいなあ」と言う。鼓膜の検査と聴力検査をすると「こりゃね、突発性難聴というやつだな」と。突発性?難聴?一瞬「でもまあ治るんでしょ」ぐらいに思ったのだけど先生が「君、音楽とかやってないやろね?」と訊くので音楽やってますと答えると「まいったな…」というリアクション。

完全回復の可能性は50%と言う(今調べ直すと30%という数字も)。「は!?なんすかそれ!」と言いたいところだけど少々ショック状態だった。

 実際は点滴の方が効果は高いらしいのだけど僕の場合はステロイドを内服することになった。その夜はもう耳がもとに戻らないかもしれないという恐怖から食事が喉を通らなかった記憶がある。早めに寝て深夜トイレのために起きた時もまだ右耳は同じ状態で「これはダメなのかな」と思い作曲は諦めることになるのかなと考えた。

 

 翌朝、なんと完全に聴こえるようになっていてびっくりした。さっそく耳鼻科に行って検査すると完全回復していた。薬がかなりよく効いたらしい。そのあと調べてみると一晩で回復とはなかなかレアなケースのよう。ちなみに難病であるとのこと。原因はよくわかっておらず身体的、精神的ストレスだとか風邪をひいている時とか、そういったタイミングでなんらかのウィルスによるものだとか色々言われていてよくわからないのだそうな。つまり誰でもいつでも発症し得る。

突発性難聴は一度発症すると(聴力が回復するしないに関わらず)もう再発はしない。

母親の友人の息子さんも以前発症して、病院に行くのがかなり遅かったらしく聴力が発症前の70%までしか回復せず早く受診しなかったことをかなり後悔したらしい。

 

 という経緯があるので検索して音響外傷という言葉と治療の項目を読んで「またあの恐怖感と戦うのか…」というかなり心配な気持ちになった。結局数時間で治まるどころか一晩たってもなんだかキーンという音は聴こえるし、駅ホームのアナウンスの周波数の高いシャリシャリした音を聴くと耳がビリっとなるし、コンビニのレジ袋のガサゴソいう音も目の前で音が鳴っているのにその音源がどこにあるのか掴みにくいという状態だし、家に帰るまでかなり憂鬱だった。ライブの翌日は日曜だったので早く医者に行きたくても月曜まで待たなきゃならんし…。

 

 ところがその日曜の深夜ぐらいになると「あれ、なんだかちゃんと聴こえるぞ。ヘンな感じもない!」となって月曜の朝、突発性難聴を治してくれた耳鼻科で検査すると完全に回復していた!なんという悪運の強さ!またしても回復。「ライブ?まあ今回は自然治癒したけど今度から大きな音がする場所に行く時は耳栓持って行ってね」と先生。ライブ用の耳栓というやつだ。

 

 でもこういった種類の幸運というのはほんとにたまたま(だから幸運というのだけど)なので本当に気をつけようと思った。年齢による聴力の衰えなどは誰にでも起こるが防げるものはきちんと予防行動を取らねばならない。音響外傷は侮れない。

 

 

 

ということで罪神のみんなも気をつけて。